#43 スライムくん①

07 人生はゲーム




「スライムくん」

彼のことをそう呼んでいる。
もちろん、「心の中」で。

とてもいい人。
今の同僚の中で、1番気を使わず、話ができる人。

勤務年数としては、1年先輩。
つまり、昨年度から教育委員会。

直接業務で関わることは全くなかった。
だが、チラホラ聞こえてくる。

「スライムくんのスライムらしさ」について。

決して良い意味ではない。
一言で言えば「頼りない」

そんな話は聞いてはいた。
だが、私達は仲良くなった。

きっかけはいつの頃だろう。
1年目の私は、苦しんでいた。

「教育委員会の人達は、なぜ冷たいのか」

皆が、自分の業務で忙しいのは分かる。
だが、「優しい」と感じることはなかった。

「もっと親切にすれば、お互いに仕事をしやすいのに」
と思うこともしばしば。

「同僚ではあるが、仲間ではない」
そう思っていたとき、スライムくんとの距離が近づいていった。

「優しい」
と言えば一言で終わってしまうが、いわゆる
「癒やし系」

そんな雰囲気を心地よく感じた私は、声をかけることが多くなった。

それは、些細なこと。
「今日も定時に退庁できるように頑張りましょう」

こう声をかける理由は、ともに「電車通勤」だったからだ。

揃って定時退庁すると、駅までは2人でいろいろ話を時間。
およそ10分。

お互いの1日の労をねぎらい…というか、ほぼ私の愚痴を聞いてくれた。 

私は1年目。
スライムくんは2年目。

1年先輩の話は参考になった。
1年目の私が苦しんでいること。
それは、誰もが苦しむこと。
そう思えた。

ありがたかった。

人は仕事がうまくいかないと、こう考えがちだ。

「自分には能力がない」
「他の人より劣っている」

そんな考えが、毎日のように、私を蝕んでいった。

そんなときに、話を聞いてもらえた。
そして…「私もそうだった」

その言葉に救われた。

スライムくんに救われた。

心を許していまい、業務中にも、つい声をかけてしまう。
だが、それも受け入れてくれたスライムくん。

特別なことがない限り、定時に退庁し、駅までの10分は同じ時間を過ごした。

それは、ほぼ私の愚痴。
いつも聞いてくれた。

その関係に、少し変化が起き始めた。

そうそれは、夏だった。


コメント

タイトルとURLをコピーしました